千葉地方裁判所 昭和49年(ワ)34号 判決 1974年5月29日
原告 株式会社木村工務店
右代表者代表取締役 木村幸三郎
右訴訟代理人弁護士 脇田康司
被告 安原秀雄
主文
被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の土地につき、千葉地方法務局八千代出張所昭和三八年五月二八日受付第三、五二〇号をもってした条件付所有権移転仮登記に基づき、条件成就による所有権移転の本登記手続をせよ。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一原告の求めた裁判
被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の土地(以下、本件土地という。)につき、主文第一項掲記の仮登記(以下、本件仮登記という。)に基づき、条件成就による所有権移転の本登記手続をせよ。
被告は、原告に対し、本件土地につき、前項の本登記手続を承諾せよ。
訴訟費用は被告の負担とする。
との判決を求める。
第二当事者の主張
一 請求原因
(一) 原告は、昭和三八年五月一三日、訴外安原芳雄から、本件土地を、代金を金三、三〇〇、〇〇〇円とし、農地法五条による千葉県知事の許可を条件として買受けた。
(二) 原告は、本件土地につき、右条件付売買を原因として、本件仮登記を得た。
(三) 千葉県知事友納武人は、昭和四〇年一月二三日、右(一)記載の所有権移転を許可した。
(四) 訴外安原芳雄は、昭和三八年九月二九日死亡し、被告が、相続により、同訴外人の右売主たる地位を承継した。
(五) 被告は、本件土地につき、千葉地方法務局八千代出張所昭和三九年一一月一七日受付第一〇、三三八号をもって、相続を原因とする所有権移転登記を得た。
よって、原告は、被告に対し、右売買契約の条件成就により、本件土地につき、本件仮登記に基づく所有権移転の本登記手続をなすことを求め、かつ、被告の右(五)の所有権移転登記は、本件仮登記に遅れてなされたものであるから、被告に対し、右本登記手続を承諾することを求める。
二 請求原因に対する答弁
(一) 原告主張の請求原因事実中(一)及び(三)の事実は知らない。
(二) 同事実中(二)、(四)及び(五)の事実は認める。
第三証拠≪省略≫
理由
一 本登記手続請求について
≪証拠省略≫によれば、訴外片山為平が、原告の業務担当者として、昭和三八年五月一三日、訴外安原芳雄方において、同人に対し、原告が本件土地を代金三、三〇〇、〇〇〇円とし農地法五条による千葉県知事の許可を条件として買受ける旨の申込みをし、訴外安原芳雄が、直ちに、訴外片山為平に対し、右申込みを承諾し、これにより、右の申込みのとおりの内容の売買契約が成立した事実を認めることができる。右認定を覆えすに足りる証拠はない。
原告が、本件土地につき、千葉地方法務局八千代出張所昭和三八年五月二八日受付第三、五二〇号をもって、右売買を原因とし右許可を条件とする条件付所有権移転仮登記を得た事実は、当事者間に争いがない。
≪証拠省略≫によれば、千葉県知事友納武人が、昭和四〇年一月二三日、右売買による所有権移転を許可した事実を認めることができるから、これにより右売買につき条件が成就したことになる。
訴外安原芳雄が昭和三八年九月二九日死亡し、被告が相続により同訴外人の右売主たる地位を承継した事実については、当事者間に争いがない。そうすると、被告は、同訴外人の包括承継人として、本件土地につき同訴外人の、仮登記義務者としての、条件成就により本件仮登記に基づく所有権移転の本登記義務を負担する地位を承継したことになる。
したがって、被告は、本件土地につき、原告に対し、前記のとおりの条件成就により、本件仮登記に基づく所有権移転の本登記義務を負担することになったというべきであるから、原告の本訴請求のうち、被告に対し右義務の履行として右本登記手続をなすことを求める部分は正当である。
二 承諾請求について
被告が、本件土地につき、千葉地方法務局八千代出張所昭和三九年一一月一七日受付第一〇、三三八号をもって、相続を原因とする所有権移転登記を得た事実については、当事者間に争いがない。被告の右登記は、本件仮登記に遅れてなされたものであり、かつ被告の右登記は本件仮登記に基づきなされるべき本登記と牴触するから、被告が右仮登記に基づく本登記につき登記上利害関係を有する第三者に該当すれば、被告は、右本登記を承諾する義務があることになる。
仮登記をした後本登記をする前に、その本登記と牴触する後順位登記がなされた場合には、右本登記がなされることにより、後順位登記は効力を失い抹消されることになるから、その後順位登記権利者は、右本登記につき、登記上利害関係を有する。しかし、その後順位登記権利者は、同時に右本登記の登記権利者又は登記義務者である場合には、第三者ということはできない。けだし、第三者というためには、登記権利者及び登記義務者と利害が衝突する可能性がなければならず、不動産登記法一〇五条一項により準用される同法一四六条一項が本登記手続に際し第三者の承諾を要求したのは、かかる利害の衝突の可能性を考慮したからであって、後順位登記権利者が同時に本登記権利者又は本登記義務者である場合には、かかる利害の衝突の可能性はないからである。このように解しても、後順位登記権利者が自ら又は代理人により本登記権利者又は本登記義務者として登記所に出頭して本登記の申請をする場合には、その行為自体から、右本登記と牴触する後順位登記の失効と抹消を受忍しているものと認められ、また、後順位登記権利者に対し本登記義務者として本登記手続をなすことを裁判上請求しそれが認容された場合には、後順位登記権利者は、本登記義務者として、その裁判により右本登記手続をなすことを命じられ、その当然の効果として右本登記と牴触する後順位登記の失効と抹消を受忍することを余儀なくされるというべきであり、仮に本登記義務者である後順位登記権利者が第三者に該当するとしてみても、右裁判はその第三者に対抗することを得べき裁判というべきであるから、後順位登記権利者に法律上保護に価する不測の損害を与える余地はない。
本件においては、被告は、前記のとおり、その相続を原因とする所有権移転登記に先だってなされた本件仮登記に基づく本登記義務者であるから、右本登記につき第三者に該当するということはできず、したがって被告には、前記のとおりの本登記手続をなすほか、これを承諾する義務まであるということはできず、原告の本訴請求のうち、被告に対し、右本登記手続をなすことの承諾を求める部分は失当である。
三 結論
よって、原告の本訴請求のうち、前記のとおり正当な部分を認容し、失当の部分を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条のほか、原告の本訴請求のうち主要な部分は認容され、棄却されるのは附随的な部分に過ぎず、その部分の請求により付加された訴訟費用が特にないことを考慮して、同法九二条但書を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 江田五月)
<以下省略>